2012年1月12日木曜日

暫定メモ: アメリカ合衆国の戦争権限と日米安保条約

【論点】尖閣諸島への武力攻撃に対して「在日米軍」は「共通の危険に対処するように行動する」のか?

(前提)「ヴァンデンバーグ決議」などアメリカ合衆国とその同盟国との間の問題は(本論点考察の上で考慮すべきこととして)ひとまず考慮せず、ここではアメリカ合衆国内部の権限の所在のみを論じる。

1. 否定説(孫崎説)

日米安保条約 第五条に言う「自国の憲法上の規定及び手続」アメリカ合衆国憲法において何を指すかが問題となるが、孫崎享氏は、アメリカ合衆国憲法 第1条 第8節(11)を根拠に「在日米軍」が「共通の危険に対処するように行動する」ことを否定する。

「アメリカ連邦議会が許さないからできない」←アメリカ側の「自国の憲法上の規定及び手続」とはアメリカ合衆国憲法 第1条 第8節(11)

日米安保条約 第五条:各締約国は日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従って共通の危険に対処するように行動することを宣言する。 前記の武力攻撃及びその結果として執ったすべての措置は、国際連合憲章第五十一条の規定に従って直ちに国際連合安全保障理事会に報告しなければならな い。その措置は、安全保障理事会が国際の平和及び安全を回復し及び維持するために必要な措置を執ったときは、終止しなければならない。

アメリカ合衆国憲法 第1条 第8節:
(連邦議会は、次の権限を有する。)
(11)戦争を宣言し、拿捕及び報復の特許状を発し、陸上及び海上の捕獲に関する規則を定めること。

しかし、果たしてそうなのか?

2. 連邦議会と大統領との間の“米軍の「軍政」と「軍令」の権限分配”(制限説)

アメリカ合衆国憲法は、(a)「軍政」に対する民主的コントロールと、(b)事後的宣戦布告の権限を連邦議会に与えているに過ぎない。

アメリカ合衆国憲法 第1条 第8節:
(連邦議会は、次の権限を有する。)
(11)戦争を宣言し、拿捕及び報復の特許状を発し、陸上及び海上の捕獲に関する規則を定めること。
(12)陸軍を募り維持すること。ただし、そのための歳出は、2年を超える期間であってはならない。
(13)海軍を設け維持すること。
(14)陸海軍の統制及び規律のための規則を定めること。

一方、大統領に対しては、臨機応変な対応が可能な権限を包括的かつ抽象的に委任している。
=連邦議会による民主的コントロールの範囲内での覊束裁量権あり

アメリカ合衆国憲法 第2条 第2節:
(1)大統領は、合衆国の陸軍及び海軍及び合衆国の兵役のため現に招請された各州の民兵の最高司令官である。大統領は、執行部門のそれぞれの主要な職員に対し、それぞれの職の職務に関するいかなる事項についても、書面で意見を求めることができる。大統領は弾劾の場合を除いて、合衆国に対する犯罪について刑の執行停止や恩赦を与える権限を有する。
→否定説ではないが単純な肯定説とも言えない(制限説)。


3. 「1973年戦争権限法(War Powers Resolution, P.L. 95-148)」における権限分配の修正とその実効性

だが、ベトナム戦争の苦い経験から、合衆国憲法 第2条 第2節に認められた覊束裁量権をより制限する法律が何度も作られてきた(ex.「1973年戦争権限法(War Powers Resolution, P.L. 95-148)」)。
しかし、初動に関しては大統領権限であり、議会の権限は基本的に事後的な拡大抑制にとどまっている。
60日以内に作戦が終了するものに関しては、議会が関与できる前に終結している場合もある。

〔まとめ〕

1.肯定説 …「共通の危険に対する行動」を全面的に肯定 ←アメリカ合衆国憲法の規定から無理がある。
※この説は採りえない。

2.否定説 …「アメリカ連邦議会が許さないからできない」アメリカ合衆国憲法 第1条 第8節(11)
※この説はアメリカ合衆国憲法に対する基本的理解を欠き、採用できない。

3.制限説 …連邦議会と大統領との間の権限分配
(a) アメリカ合衆国憲法 第1条と第2条 による権限分配
(b) 戦争権限法による修正(議会による事後的な拡大抑制) ※この説が最も妥当。


[参考文献]
廣瀬 淳子「アメリカ戦争権限法の改革提案」 [PDF]
(『外国の立法』239(2009.3) / 国立国会図書館調査及び立法考査局)

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